2016年09月23日

概念化の効用

「名付けることは知ることである」とアリストテレスだったかソクラテスだかが言った。
(他の偉人が言ったかもしれない)

例えば犬に「イヌ」という名前を付けたのは、犬が家畜化されて狩猟の伴として役に立つようになったことが影響しているに違いない。
犬は狼とは別の生き物になったのであり、かつ人間の仲間として一定の役割を担うようになった。
だからうちの飼い犬が隣の家族に捕まって鍋で煮られないように注意しないといけない。
そのためにはこの生き物はうちの「イヌ」であると、きちんと識別出来たほうがよい。
そうやって、狼とよく似てはいるけれど人間に従順で役に立つ生き物のとしての「イヌ」の概念化が進んだものと思われる。

よく聞く話で、ベドウィンなど砂漠の遊牧民の間では同じラクダでも妊娠したラクダ、子どものラクダとかいろんな状況のラクダごとに専用の名前があるという。
日本でも、五月雨、驟雨、春時雨、菜種梅雨、夕立、氷雨・・・と同じ雨でも無数の呼び名がある。
これは生活上関心の高い事象等に対してより細かい概念化が進み、その結果として細かい名前付けが行われたということだろう。


この間、USJのマーケティング担当の人で森岡毅氏という方が書いた本のことを書いた。
その中に「エボークトセット(Evoked set)」という用語が出て来た。
(Evokedは世間では「イボークト」とも読まれるようだ)
Evokeはクルマの名前ではなくて「想起する」という意味であるらしい。
そしてエボークトセットとは、今から昼メシを食いに行くとして、はてマクドと吉野家とココイチと、どれに行くかなあ、などと思う時に頭に浮かぶ候補の先のリストのことである。
たいてい昼メシに行く時に頭に浮かぶ候補先は、せいぜい3つか4つ、多い人でも6つか7つくらいではないか。
いっきに10も15も出て来る人はなかなかいるまい。

これはお店の側から考えると、消費者のエボークトセットの3つか4つの中にちゃんと入っているかどうかによって今日のお昼の売上がかなり左右されるということになる。
だからランチの営業をしている飲食店は、周辺の見込み客のそれぞれのエボークトセットの中にどれだけ入り込むかが勝負の分かれ目になる。

そのためにはまず一度とにかく来店して体験してもらうこと、あるいは口コミや各種の広報活動を通じて基本的な知名度を上げる、良い評判を広めるなどなどの活動が必要になる。
またはSNSやDMなどで忘れられないようにすること、適当な間隔で割引クーポンを出したり月に一度のサービスを実施して定期的に我が店のことを消費者の脳裏に想起させることなども重要かもしれない。

こういう活動は今さらわざわざ言われなくても、飲食店に限らずスーパーマーケットや美容院や洋服屋や歯医者さんなどでもせっせと実際に行われている。
しかし、エボークトセットの概念をきちんとイメージして販促や広告活動をするかどうかで、その焦点の定まり様にかなりの差が出るのではないか、と思うのである。

販促や広告活動というのは、霧の中、視界のほとんど効かない中で手探りで売上を捕まえるようなもどかしさがあり、それだけに「あてずっぽ」になりがちだ。
そのように手探りの世界においては、ある抽象的なことがらにちゃんと名前をつけて認識すること=概念化によって、手探りのもどかしさが少し緩和されて実務上も精神衛生上も効用があるのではないか、などと思った。
posted by ヤス at 12:51| Comment(0) | 徒然なるままに